ハエの舞う家①
包括支援センターからの依頼でケアマネ1年生の時に伺ったお宅は、
ハエの舞う家だった。
呼び鈴を鳴らすと、
「どうぞ」
と男性が中に招き入れてくれた。
男性は80歳代、指紋だらけで曇ったメガネをかけ、ヨレヨレのTシャツをまとい、2メートルはあるであろう体格の良いおじいちゃんであった。
玄関には無数に靴が散乱しており、文字通り足の踏み場は無かった。
男性の靴を縦に重ねてスペースを確保し、自分の靴を置かせていただいた。
床はなぜか濡れており、靴下は直ぐにびちゃびちゃになった。
居間に入るとハエが無数に飛んでおり、テーブルには腐って食べ物なのかすら判別できないものが色々乗っていた。
座るよう促されたソファも同様に湿り気を帯びており、
「私は床が落ち着きますので…」
とそこを避けた。
和室には部屋の半分くらいの高さまで衣類が無造作に積み上げられ、雑巾の生乾きの匂いが漂っていた。
仏間に目をやると、大きなクローゼットの前に祭壇が置いてあり、その前に息子らしき小太りの男性がこちらも見ずに座っていた。
状況の理解ができずに立ち尽くしていると、
「本当に困っている。どうしたらよいか、もう終わりだ。」
ということで、何が困っているかお聞きすることにした。
整理するとこうだ。
・先月、息子が運転する車で妻を轢き殺してしまった
・そのせいで息子が病んでしまい、毎日0時になると祭壇に座ってお経を唱え続ける
・生活が破綻している
衝撃な告白過ぎて何を言っているのかわからなかった。
どうやら精神は病んでいるものの、食材の購入や準備、来客の対応はできるようだった。
掃除云々のレベルではないこの部屋で、まず何をしようかと考えた。
介護保険証の確認だ!
おじいちゃんに尋ねると、「わからない」という。
許可を得てガサ入れして何とか見つけたが、介護度が空欄になっている。
「あのぉ…介護認定は受けていますか?」
「何だそれは。本当に困った…」
というばかりでらちがあかない。
(続く)