ハエの舞う家②
介護認定には、認定調査員の調査票と主治医の意見書が必要だ。
この男性は10年前に何かしらの治療を受けたというだけで、あとはどこにもかかっていなかった。
家の中にあった診察券から、病院に連絡して本人確認の末、病歴や治療歴などを確認することができた。(個人情報保護で簡単には教えてくれないので)
近くの病院ならよかったがそこは遠い。
おじいちゃんには、
「色々とお手伝いしたいので、まずは健康状態を確認しましょう」
と近所のクリニックへ連れていくことにした。
息子から、おじいちゃんにはもう1人息子がおり、車を出してくれると聞き取りできたため早速連絡した。
後日ようやく受診した後、意見書を書いてくれることになり、認定調査の依頼を出すことになった。
小太りの息子はおじいちゃんの健康管理までは難しいようで、自分を保つのに精一杯といった様子。
とても栄養を考えた食事の提供は出来なさそうだった。
まだ認定結果は出ていないものの、いくつか問題が浮かび上がった。
①受診はできたが薬の管理はできない
②採血の結果、栄養状態を示すアルブミンの値が低い、また血圧が180台と高め
③基本動作は行えるものの、排尿感覚が曖昧で常に尿失禁状態(湿り気の正体)
④顔は洗うが着替えはせずに風呂にも入っていない(浴室は物が山積みでとても入れない)
⑤床に散乱したゴミや物で転ぶ危険性が高い
⑥ソファからの立ち上がりに時間がかかる
⑦まして汚い布団で寝ている
これらの他にもあるが、まずはこれらをなんとかしようと考えた。
元々高い年金をもらっている方なので、多少お金がかかっても問題ないらしく、
上記に対して以下の提案を行う。
・配食サービス(栄養状態改善、見守りの目、薬の促し)を毎日
・訪問介護による部屋の片付け、掃除(転倒防止、気持ちの入れ替え)
・訪問看護による健康管理(血圧などの確認、医師とのやり取り、緊急時の訪問)
・デイサービス利用(人との交流、入浴、機能訓練)
・訪問介護によるデイサービスに行く前の準備
・ソファへの手すり設置(大腿部の筋力低下で立ち座りが大変そうだった)
その当時は、認定が下りていない状態でサービスを開始するのは不安だったが、今思えば明らかな要介護者である。
サービスの内容を本人はよく理解していなかったが、それでも人が来ることに嫌悪感を示さなかったため、全てスムーズに入ることができた。
状態や環境が改善して徐々に表情がよくなり、目は生き返ってきた。(これはほんとに感じること、介護の力はすごい)
不安も解消されていった。
約3ヶ月後、病院の検査で心疾患の疑いがあり入院することとなった。
入院したおじいちゃんはみるみる弱り、お見舞いに行った時には話すこともできなくなっていたが、「早く帰ってきて下さい」と伝えた時には、手を上げてうなづいた。
それから自宅に戻ることはなく、私の仕事は終わった。
同居していた息子さんもおじいちゃんと同時期に糖尿病の悪化で入院となり、以後あの家にはお邪魔していない。